なぜ股関節がつまるのか?
股関節のつまり、または股関節の緊張は、運動不足や不適切な姿勢、または筋バランスの不調から生じることが多いとされています。ストレッチをしても症状が改善されない例は多く、その理由を深く理解する必要があります。
股関節のつまりの原因と症状
スキーヤーはブーツの着用により、滑走姿勢は常に股関節屈曲位となります。スキー場までの移動時も車や電車内では長時間座位姿勢でいることにより、股関節屈曲筋群は短縮しやすくなります。スキーヤーの腸腰筋や大腿直筋、縫工筋や大腿筋膜張筋などの股関節屈曲筋群は硬くなりやすい姿勢を保つ時間が非常に長く、その結果、股関節のつまりを感じる人も多いと思います。
長時間同じ姿勢(股関節屈曲位)でいることの他に、筋力不足、または筋肉の使い過ぎなどが原因としてあります。スキー動作の特殊性だけでなく、特にデスクワークや普段から長時間運転をする人に多く見られる症状で、股関節前方の筋肉が縮み、反対の筋肉が過度に伸ばされるため、筋肉痛や緊張を感じることがあります。これらの不快感は日々の動作に影響し、さらに悪化することがあるため注意が必要です。
症状としては、股関節や腿の前側に痛みや重さを感じることが多く、場合によっては運動時に機能障害を引き起こすこともあります。
股関節のつまりを改善するためのストレッチのポイント
股関節のつまりを解消するために行うべき最初のアプローチは股関節屈曲筋群へのストレッチです。ただ、つまり感がある人は普段でもストレッチは行っていると思います。私の提案としては、少し張力強めなレジスタンスバンドを使って、パートナーストレッチで得られるような殿部方向からのテンションをかけて股関節屈曲筋群を伸ばすやり方です。
柱などの固定アンカーにレジスタンスバンドを巻いて、なるべく腿の付け根にバンドを装着して、股関節伸展姿勢をとり、屈曲筋群を伸ばします。股関節を曲げたり伸ばしたりを複数回繰り返します。レジスタンスバンドの張力によって、アンカーと自分の距離を調整してください。注意点としては、最初から一番テンションがかかる地点でアクティブストレッチを行わないことと、痛みを感じるほど無理に筋肉を伸ばさないことです。
ただ、股関節のつまりに対しておこなうストレッチは、一時的に筋肉の柔軟性を向上させ痛みを軽減する効果はあります。ストレッチによって筋肉の緊張が和らぎ、血流が促進されることで、股関節周辺の硬直を解消しやすくなります。しかし、このリリーフは一時的なものであり、根本的な問題を解決しているわけではありません。
レジスタンスバンドを使用したエクササイズ
ストレッチで解消しない場合には、筋活性化エクササイズをオススメします。股関節屈曲筋群を活性化させることで、股関節周りのサポートが強化され、痛みの軽減や予防が期待できます。特にレジスタンスバンドを使ったエクササイズは、一人でも手軽に出来て、股関節に負荷をかけつつ、周囲筋群のバランスコントロールと強化するのに最適です。
レジスタンスバンドを使った股関節屈曲筋群エクササイズ例
今回は2つのエクササイズをご紹介します。一番簡単なのはレジスタンスバンドを柱などの固定アンカーに巻き付けて、仰向けに寝た状態でレジスタンスバンドを足首に固定し、膝を胸に近づけることで股関節屈曲筋群を活性化させるエクササイズです。
仰向けに寝ているので、骨盤に体重が乗っていない状態、いわゆる「非荷重姿勢」でトレーニングすることが出来て、股関節周辺の筋バランスや収縮させる股関節屈曲筋群を意識しやすくなります。股関節屈曲筋群にはメインになる腸腰筋の他、大腿直筋や大腿筋膜張筋などがあります。腸腰筋しか使えていないとか、大腿直筋だけに力が入るなど、屈曲動作における協調性の欠如が必ず起きているはずなので、意識を集中してモニタリニグしながら、丁寧に反復することが重要です。
腸腰筋は深部にあるので、触るのは難しいのですが、大腿筋膜張筋や大腿直筋は表層にある筋肉なので皮膚を通して筋肉を収縮を感じることが出来ます。手でそれらの筋肉を触れながら反復することで、特に左右の違いがあればすぐに判断出来ます。
立位での股関節屈曲エクササイズ
前述した仰向けに寝た状態(背臥位)でのエクササイズは、各筋肉を意識しやすくいので丁寧に各筋肉を意識したトレーニングが可能です。しかし、スキーは立位姿勢で行うエクササイズなので、股関節屈曲筋群の活性化エクササイズも立位バージョンも行う必要があります。
立位姿勢と背臥位姿勢の違いは大腿骨に体重がかかるか、非荷重かという点が大きく異なります。体重が大腿骨頭にかかると股関節の可動性は低下します。また正しい骨盤の前傾角を保持していないと、大腿骨頭に不要なストレスがかかり、つまりや痛みの原因にもなります。
従って、立位姿勢でのエクササイズは必ず背臥位姿勢のエクササイズをしっかり行って、股関節屈曲筋群がバランスよく使える状態になってから行うことをオススメします。
このエクササイズのやり方は、柱などの固定されたアンカーにレジスタンスバンドを巻いて、活性化させたい側の足首にバンドを取付けます。最終的にはイメージ写真のように、反対の足だけで自分の体重を支持してバランスコントロールしながらトレーニング出来るのが理想です。しかし、レジスタンスバンドの張力により不安定になるので、最初は何かに捕まってカラダを安定させながら行う方が良いでしょう。
大腿が水平位になるくらいまで膝を引き上げると股関節屈曲筋群がしっかり活性化します。レジスタンスバンドの張力が強過ぎると、大腿が水平位まで上がらなかったり、上げても余計につまり感が出てしまうので、立ち位置を調整しながら行ってください。
また立位の場合は股関節屈曲動作を行う際、脚を動かすので大腿直筋が働きやすくなります。股関節深部にある腸腰筋を意識してトレーニングしましょう。
ヒップスラストで殿筋も活性化させる
股関節の屈曲筋群だけでなく、拮抗筋である大殿筋を活性化させて、屈曲筋群をリリースする方法も役立つ可能性があります。これは「相反抑制」という筋肉と神経の繋がりを利用し、拮抗筋に負荷をかけて収縮を促すと腸腰筋や大腿直筋が伸展しやすくなります。
股関節のつまりは一般的には屈曲筋群が固まっていることが多いので、屈曲筋群のストレッチが最初の選択肢となりますが、屈曲筋群や伸展筋群の弱化により筋緊張のバランスの乱れも充分考えられます。股関節伸展筋群の活性化として、最初に行うべきは「ヒップスラスト」エクササイズです。
ヒップスラストの方法と効果
ヒップスラストは、主に大殿筋をターゲットにしたエクササイズです。この運動は地面に背中をつけて座り、膝を曲げて立てた足で行います。手を床に置いた安定した姿勢から、殿筋を収縮させて股関節を持ち上げます。
この時に重要なのは腹直筋を使って股関節を持ち上げない、ということです。殿筋をしっかり使うためには骨盤を上げる意識ではなく、足裏で地面を押さえ込むようにして「押す」意識を持って、骨盤挙上をする、ということです。
ヒップスラストエクササイズのプログレッション
ヒップスラストにはいくつかの変種やバリエーションがあります。スキーヤーのトレーニングとして重要ななのは、強度を高くするエクササイズバリエーションよりも、難易度を上げるエクササイズバリエーションの方が、ターンムーブメントに対する抗力や運動の特異性を考慮したトレーニングが実施出来ます。
例えば一方の足を持ち上げて行う片脚ヒップスラストでは、3点支持でのトレーニングになるので、股関節周辺筋群のバランス調整と協調筋の強化が促されやすいです。片脚でのトレーニングにより、股関節内に自然に回旋モーメントが生まれて、内外旋動作に関与する中殿筋・小殿筋・深層外旋六筋など、股関節深部にあるローカル筋群も活性化させることができます。
まとめ
股関節のつまりや痛みに対し、多くの人々はストレッチを試みるものの、一時的な緩和しか得られず、それが繰り返し起こる慢性的な問題になっています。しかし、股関節の問題を本質的に解決するためには、静的ストレッチだけでは十分ではありません。
動的ストレッチも行うことで、筋肉の活動的な柔軟さと機能的な動きを促進できます。歩行やランニングなどの動作を取り入れた動的ストレッチは、股関節の可動域を拡大し、運動前のウォームアップとしても優れています。
そして、股関節を取り巻く筋肉のバランスを改善するためには、股関節の屈筋群や伸展筋群のアクティベーション(活性化)が必須です。
日常生活での姿勢の悪さも股関節の問題の一因になっていることがあります。長時間の座りっぱなしや姿勢の悪さを改善することで、股関節への負担を減らし、つまりを予防できます。
これらの対処エクササイズを組み合わせて行うことで、単に筋肉を柔らかくするだけでなく、股関節に働きかけ、痛みやつまりを根本的に改善することが期待できます。長期的な改善を目指し、一つ一つの対策に取り組むことが大切です。
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参照エビデンス
Effect of hip angle on anterior hip joint force during gait 2010
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20934338/
Effect of simulated changes in pelvic tilt on hip joint forces 2020
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35325751/
Frontal plane hip joint loading according to pain severity in people with hip osteoarthritis 2017
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29178297/
Hip biomechanics during stair ascent and descent in people with and without hip osteoarthritis 2017
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27572656/
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