スキーヤーのためのオフシーズントレーニングには色々な要素のトレーニングが必要です。
柔軟性を高めるストレッチやモビリティエクササイズ、筋力を向上させるストレングストレーニング、持久力を高めるエアロビックトレーニング。瞬発力を高めるアジリティ&クイックネス、など沢山の運動要素のトレーニングが求められます。
特に高校生以上の選手や社会人スキーヤーの方に沢山取り入れて欲しいのは、動作の質的向上を目的とする「ファンクショナルトレーニング」です。
ファンクショナルトレーニングとは?
スキーヤーに求められるオフトレは競技選手・一般スキーヤー関係なく2つに大別出来ます。
- カラダをつくるトレーニング=フィジカルトレーニング
- カラダを使えるようにするトレーニング=ファンクショナルトレーニング
筋肉を増やしたり大きくしたりするストレングストレーニング、心肺機能を高めるエアロビックトレーニングなど、カラダの構造自体をレベルアップさせていくのが「フィジカルトレーニング」です。
フィジカルトレーニングで培った筋肉を、自分の意のままに動かせるカラダにしていくトレーニングが「ファンクショナルトレーニング」になります。
ファンクショナルとは「機能的」という意味です。筋肉や関節の構造に即した動きが出来るように、多面的な動作のトレーニングをするのがファンクショナルトレーニングの特徴です。
自体重でのエクササイズもありますし、バランスボールや軽めのダンベル、レジスタンスバンドやサスペンションエクササイズ®ツールなど、個人でも購入出来るようなトレーニングアイテムを使用することで、無限のトレーニングバリエーションを楽しむことが出来ます。
写真は通年でプログラムサポートしている水落亮太選手と兼子稔選手のトレーニングシーン。レジスタンスバンド(ゴムチューブ)を利用して、体幹に一方向から負荷をかけてローテーションが生じないように体幹を使いながら、股関節の機能性を高めるエクササイズをしています。
「動作」の精度を高めるためのトレーニングとしては軽い負荷でも十分。ファンクショナルトレーニングは手軽に実施することができます。
スキーヤーのオフトレにファンクショナルトレーニングを取り入れるべき絶対的メリット、3つを解説していきます。
「3面動作」で怪我するリスクを低減
スキーの滑走動作だけではなく、他のスポーツや日常生活動作を含むすべての動作は3つの動作面で構成されています。
矢状面:前後や上下方向の動作面
前額面:左右方向の動作面
横断面:回旋動作や水平方向の動作面
この3つ面の動作を「3面動作=3プレーンムーブメント」と言います。
「3D=3Dimension」という言葉もありますが、これも3面です。3D という言葉はアニメとか 映画・CG などでよく使われます。トレーニングの研究論文では「Plane」が主に使われています。
スポーツをしていて怪我をする動作面はほぼ「前額面と横断面」です。
「矢状面」の動作で怪我が少ないのは、「大きな筋肉がカラダの前後に存在する」ことと、「多くの関節が前後に動くようになっている」構造的特性によるものです。
スキーのターン動作には他のスポーツよりも沢山「前額面と横断面」の動作が含まれています。
日常生活動作もほぼ「矢状面」での動作ですし、筋トレの多くの種目やエアロビックトレーニングも「矢状面」の動作中心です。
筋トレ自体、筋肉を増やし怪我のリスクを低減する効果がありますが、動作面という視点で見ると特にマシントレーニングを中心に筋トレをされている方は、矢状面中心の動作になっているので、怪我のリスクを減らすために「前額面と横断面」の動作トレーニングをプラスして行うことが必要になります。
高校生や大学生スキーヤーであれば、ラダーやマーカーなどを使ってアジリティ&クイックネス向上を目的としたフィールドトレーニングで「前額面と横断面」の動作トレーニングが可能です。
直線的なラダートレーニングしかしていない選手は、より横方向やカラダの向きの変換動作が含まれるアジリティトレーニングなどを増やしていくことが重要となります。
社会人スキーヤーの方の場合、ジムや部屋トレをメインにオフトレしている方は、日々のオフトレに「前額面と横断面」の動作が含まれるファンクショナルトレーニングを入れることで、怪我のリスクを減らすことが出来ます。
自体重での複合関節を動かすエクササイズでも良いですし、レジスタンスバンド(トレーニング用のチューブ)を使うと、より動かすべき関節や筋肉を意識しやすくなります。
自分の能力をスキーにアウトプットしやすくなる
ファンクショナルトレーニングの多くは複数の関節や筋肉を同時に使う「複合関節運動」です。多面的な動作のファンクショナルトレーニングを行ってると、複数の関節や筋肉を効率的に使うことが出来るようになります。
筋トレマシンの「レッグエクステンション」は大腿四頭筋を鍛えることが出来ます。動作としては、膝関節の曲げ伸ばし動作(前後方向)のみ。いわゆる「単関節運動」となります。
バーベルを使ったスクワットは股関節・膝関節・足関節と3つの関節を同時に使う「複合関節運動」です。レッグエクステンションよりも、スキーの滑走運動のように複数の関節を使うので、スクワットの方がより滑走運動に近い形で力の発揮が出来るようになります。
ただ、スクワッティング動作は矢状面の動作(前後・上下方向の屈曲・伸展動作)のみとなります。
筋力をアップしたり筋肉を増やしたりすることが目的であれば、スクワットでOKです。
スクワットで培った筋肉をスキーパフォーマンスにつなげていくためには、より多面的なトレーニングが必要になります。
このトレーニング映像は通年でプログラムサポートおよびチームトレーニングサポートしている日本体育大学スキー部・田代空選手のシングルレッグランドマインスクワットです。
「ランドマイン」というトレーニングは、あまり日本では一般的に行われていないのですが、海外では比較的ポピュラーなバーベルトレーニングになります。
ランドマイン専用のアンカーホルダーもありますが、常設してある日本のトレーニングジムはかなり少ないので、トレーニングする場合はバーベルのバーを地面につけて、動かない様にラックの柱などにあててトレーニングすることが出来ます。
横方向への力の発揮に加え、片脚で動作を行うことにより、股関節や体幹には回旋モーメントが加わり、より滑走中の負荷に近い形でのパワーのアウトプットが求められます。
田代選手の場合、かなり高重量でトレーニングしていますが、初めてランドマイントレーニングをする場合は、スクワットで高重量挙げていても、軽めの負荷から段階的にチャレンジすることをおすすめします。
トレーニングジムによっては、ランドマイントレーニングを不可としているところもありますので、チャレンジする場合は事前に確認されると良いでしょう。
ランドマイントレーニングが出来ない方は、片手でダンベルを持って、交互にダンベルフロントランジでも良いですし、左右異なる負荷や動作を行うのも良いでしょう。
スキーの滑走動作は「多面的な動作」です。オフトレでも多面的な動作を鍛えることで、ご自身の持っているパフォーマンスをスキーにより伝えやすくなります。
リカバリー能力を高める
スキーはアウトドアスポーツなので、同じスキー場の同じバーンであっても、雪質・積雪・圧雪硬度・斜度・気温・風など自然環境の影響を受けます。
時間帯によって太陽の位置が変わるので、雪面の変化が見やすい時間帯や見にくい時間帯もあると思います。視覚情報などを元に姿勢制御は行われますので、見にくい状態であれば、バランスを崩してしまう確率は高まります。
どんなトップスキーヤーであっても、バランスを崩してしまうシチュエーションは必ずあるわけです。
大事なのはバランスを崩してしまう状況になってしまった際に、「バランスの乱れを最小限に抑える」「最適なポジションに戻す」この2つが重要となります。
バランスをコントロールするということになると、バランスボールやバランスディスクのトレーニングなどをイメージされる方も多いと思います。
リカバリー能力を高めるためのファーストステップとしては、実はバランスボールやバランスディスクでのトレーニングはハードルが高いトレーニングです。普段リカバリー能力を高めるためにバランスボールやバランスディスクを使ってトレーニングしているけど、トレーニングの効果を実感出来ていない方は、トレーニング方法を変更した方が良いです。
バランスボールやバランスディスクトレーニング自体は非常に良いトレーニングで、そのトレーニング自体を否定するものではありません。使い方や使う目的がフィットしていれば全然問題ありませんし、そのトレーニング効果を実感出来ると思います。
バンランスボールやバランスディスクは多面的に動きますし、動けます。「多面的に動けてしまう」ことがこれらのアイテムを使用してもリカバリー能力が高あまらない理由です。
例えば前後方向の姿勢制御動作に問題がある場合、当然バランスボールやバランスディスクを使ったトレーニングで前後方向のバランスの乱れが生じやすいのですが、側方の姿勢制御動作も織り交ぜてバランスコントロールをします。
このこと自体は悪いことではありませんが、この様なリカバリーの仕方は滑走中の姿勢保持には役立ちません。
ターンをしていて少し踵荷重になってしまった場合、スキーが縦(前後方向)に抜けそうになります。その際に横方向に動いて姿勢制御するとどうなるか。ターンしているときにはエッジが雪面にグリップしていて、スキーがズレなければ、その影響は膝関節にダイレクトに伝わります。
ただ、こういうリカバリーの仕方をすると膝関節への負担が増して怪我のリスクが高まってしまうのです。
前後の方向の動きが悪いのなら、前後方向の姿勢制御に関係する筋肉や関節の動作をトレーニングすることが重要で、例えばフォームローラーのハーフカットを横に置いて、その上でスクワットを行うようなトレーニングの方が前後方向の動作に対するバランスコントロールには役立ちます。
フロントランジ(前後動作)をする際に、バランスをコントロールするために膝関節を内側や外側に動かして姿勢制御をするような動作を「代償動作」と言います。本来は股関節がその動作をしなければいけないのに、膝の方が動かしやすいのですぐに膝関節を動かしてしまいます。
リカバリー能力を高めるためには動かして行かなければいけない関節や筋肉が機能しているか、チェックしつつ、動かさなければいけない特定の動きに刺激を与えて、その動作をしやすくしていく「動作改善」が重要となります。
ファンクショナルトレーニングの中で動作を正しく修正していくことを「コレクティブムーブメント®︎」といい、動作を修正していくエクササイズを「コレクティブムーブメント®︎エクササイズ」と言います。先程のフロントランジエクササイズで言えば、あえて膝が内側に入る方向にレジスタンスバンド(リハビリ用のゴムチューブより少し強度の高いもの」を横にひっかけます。膝が内側に入らないように抵抗することで、膝の向きの姿勢制御に関係する筋肉が活性化し、正しい動作が出来るようになります。
コレクティブムーブメント®︎はファンクショナルトレーニングの中では基礎的なものですが、最も重要なトレーニングです。上手く動かせていない筋肉や関節を活性化させ、動作を正しく修正していくコレクティブムーブメント®︎エクササイズをすることで、カラダの姿勢制御能力が高まり、リカバリー能力アップにつながっていきます。
ファンクショナルトレーニングの基礎となるコレクティブムーブメント®︎をしっかり行った上で、バランスボールやバランスディスクを使ってトレーニングすることで、よりリカバリー能力を高められます。
リカバリー能力を高めたい方は、まずはファンクショナルトレーニングのコレクティブムーブメント®︎エクササイズにチャレンジしてみてください。
まとめ
すべての年代・レベルにおいてファンクショナルトレーニングは非常に重要なオフシーズントレーニングです。ただエクササイズのやり方や意識の仕方を間違えてしまうと、単なる筋トレになってしまいます。
筋トレとは違う「動作」や「機能性」という視点でトレーニングしていただくことで、動けるカラダづくりにつながっていきますので、ぜひファンクショナルトレーニングを取り入れてみてください。
S-CHALLENGE Training Program Works では、定期的に都内でファンクショナルトレーニングをベースにした「SKIオフトレWorkshop」を開催しています。動けるカラダづくりにチャレンジしてみたい方は、「SKIオフトレWorkshop」もチェックしてみてください。
S-CHALLENGE Training Program Works 代表/フィジカルトレーナー
ファンクショナルトレーニングと筋力トレーニングを統合したトレーニングメソッドで、アスリートやスポーツ大好きな社会人クライアントの動作と機能を高めるサポートを展開。日本スポーツ協会 公認アスレチックトレーナー(JSPO-AT)、全米スポーツ医学アカデミー 公認コレクティブエクササイズスペシャリスト(NASM-CES)