スキーヤーの怪我の発症部位で一番多いのは膝関節です。特に前十字靭帯損傷。サポートしているスキーヤーの怪我の発症リスクをどうしたら減らせるか。「怪我予防」は常に意識してリサーチしているテーマの1つです。
スキーと同レベルで膝関節の怪我が多いスポーツの1つにサッカーがあります。スキーヤーの膝関節障害予防に役立つヒントを得るために、サッカーに関する様々なエビデンスも常にリサーチしています。
今回ご紹介するのは、サッカーにおける膝関節前十字靭帯損傷について、2020年6月にイタリア・ボローニャのFIFA Medical Center から発表された興味深いリサーチです。スキーヤーにも共通する内容でしたので、シェアしたいと思います。
サッカーにおける膝関節前十字靭帯損傷の事例
Systematic video analysis of ACL injuries in professional male football (soccer): injury mechanisms, situational patterns and biomechanics study on 134 consecutive cases 2020
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32561515/
参照論文の要約
2020年イタリア・FIFAメディカルセンター
受傷パターンの内訳
・非接触型+間接接触型:88%(直接膝に当たらないが、体の他の部分への接触があった場合)
・直接接触型:12%(膝に直接接触があった場合)
サッカーはコンタクトスポーツなので、タックルなど相手との接触シーンがあります。接触シーンが多ければ怪我の発生も増えると想像しがちですよね。
このリサーチでは、サッカーの前十字靭帯損傷の多くは、タックルされたりぶつかったりすることの無い状態=非接触(44%)または間接接触(44%)で発生していた、ということを述べています。合わせると88%です。
サッカーはコンタクトスポーツです。ボールを持っている相手にタックルされることが多いので、接触プレー(コンタクトプレー)による怪我が容易にイメージ出来ます。
ただ、今回のリサーチではコンタクトスポーツなのに非接触や間接接触での怪我が多い、というのはかなり驚きのデータです。
非接触は自分でバランスを崩して転倒したりして怪我するパターン、間接接触は相手の足につまずいた後に膝を捻ったりして前十字靭帯が損傷するパターンになります。
スキーも非接触型の障害は多い
スキーの場合、スキーヤー同士がぶつかって怪我をするパターンもまれにありますが、多くは単独の転倒による怪我です。
私のトレーナーとしてのサポート経験のなかで、「ターンしている最中にちょっと後傾姿勢になりスキーが走った瞬間に切れた」とか、「ピステンの段差で少しスキーが跳ねた瞬間に切れた」とか、「ちょっとしたジャンプで着地した瞬間に切れた」という選手が一定数いました。
かなり昔の話になりますが、某オリンピック選手がスキー滑走中、私の目の前で10cm程度の圧雪のギャップを通過する際に、ほんのわずか雪面からスキーが浮きました。その瞬間、片脚の膝関節が力の抜けた状態になっているのを視認しました。
転倒してもいないのに、前十字靭帯断裂という結果だったので、かなり驚きました。
転倒しなくても起きうる膝の怪我。このような非接触型の前十字靭帯損傷のリスクを減らすためには、大腿部の強化、いわゆる筋トレで脚の筋量を増やすだけでは不自由分だと考えています。
スキーに限らず、一般的なスポーツにおいて非接触型の膝関節障害を減らすには、地面に最初に接触する直前の神経認知が重要とされています。
少し難しい話になりますが、例えば「片脚で体重を支持しながら動作を行うエクササイズ」は片脚でバランスをコントロールする際に、常に足裏の皮膚にあるセンサーからカラダのバランスをコントロールするために必要な情報を脳に送っています。
それを脳が分析して、体重を支持している脚の筋肉に指令を出す、ということをリアルタイムに行っています。
これらの一連の流れを、専門用語で「神経伝達系」と言います。神経伝達系を整えていくことが、神経認知の能力を高めることに繋がります。
神経伝達系に刺激を加える一番簡単な方法は、「片脚で立つ」「片脚で立った状態で股関節を動かす」「片脚でジャンプする」など、片脚支持バランスのエクササイズです。
神経系に刺激を与える、3つのお勧めエクササイズ
「片脚で立つ+動作」であれば、どんなエクササイズでも効果があります。トレーニングアイテムが無くてもできますし、狭いスペースでも実行出来ます。
私がお勧めしたいのは、膝関節の怪我予防として、朝のウォームアップのエクササイズの中に、片脚でバランスを取ったり、片脚の状態でカラダを動かすようなエクササイズを入れることです。
スキーヤーの朝はとても早いですし、分単位のスケジュールでなかなか時間の確保は大変です。しかし、しっかりとしたウォームアップを行わないと、怪我のリスクが高まってしまうことも明らかです。
5分でも10分でも良いので、以下のような片脚で立った状態のエクササイズを、是非あなたのウォームアップバリエーションに入れてください。
シングルレッグレッドリフト+リーチ
シングルレッグデッドリフト+サイアップ
スケータースクワット
回数の目安ですが、筋トレではないので、たくさんやる必要はありません。各エクササイズ5-6回ずつ繰り返せば良いと思います。
苦手な足や、過去に怪我した脚がある場合は、そちらの脚を先に行いましょう。そして、苦手な脚・怪我のリスクのある脚を1セット多く行うことが良いと思います。
スキーを滑る前に、片脚支持バランスを伴ったエクササイズをおこなうことで、怪我予防に効果的なウォームアップになります。怪我のリスクを少しでも回避するために、楽しくスキーシーズンが過ごせるように、ぜひ取り入れてみてください!
参照エビデンス
Systematic video analysis of ACL injuries in professional male football (soccer): injury mechanisms, situational patterns and biomechanics study on 134 consecutive cases 2020
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32561515/
S-CHALLENGE Training Program Works では、完全オーダーメイドの個別化トレーニングプログラムの作成・配信サービス「プログラムサポート」を全国のクライアント様に展開しています。事前に提供していただいたトレーニング履歴や受傷履歴などの個人情報や利用可能なトレーニング環境、ライフスタイル、トレーニングおよび体力レベルに応じたプログラム作成をしています。適切なプログレッシブオーバーロードを個別プログラムに反映させながら、トレーニングの成果をパフォーマンス向上やカラダの機能的向上につなげています。「プログラムサポート」サービスに関するご質問・お問い合わせはお気軽にこちらのWEBフォームをご利用ください。
S-CHALLENGE Training Program Works 代表/フィジカルトレーナー
ファンクショナルトレーニングと筋力トレーニングを統合したトレーニングメソッドで、アスリートやスポーツ大好きな社会人クライアントの動作と機能を高めるサポートを展開。日本スポーツ協会 公認アスレチックトレーナー(JSPO-AT)、全米スポーツ医学アカデミー 公認コレクティブエクササイズスペシャリスト(NASM-CES)